食べ物記者 齋藤訓之

農業、食品、外食に関するビジネスの記者・編集者、齋藤訓之(さいとう・さとし)のWebサイトです。

贖罪の山羊

[caption id="attachment_1148" align="alignright" width="192"]ヤギ ヤギ[/caption]

 テレビ局の社員が下請けの制作会社に番組を発注する。高めに請求させて差額をプールするないしそのテレビ局社員の懐に入れておく。取材を円滑にするために必要になる金品、スタッフや出演者を労うための食事代、どの特定の番組作りのためとは言えないようなものやことにかかる金などを、その裏金から賄う。そうした金の流れはテレビ番組制作という仕事の中では、普通のことだと聞いていた。名前貸しの労働不要のアルバイト(?)の話も聞いたことがある。

 で、当然思う。友人たちと訝る。

 なんでこのたびは、NHKのあるプロデューサー一人だけが槍玉に挙がっているのか? 犯罪は犯罪だとしても、この人は先輩たちがやって来た通りのことをやったのではないのか? 仮にこの人が特にひどかったとしても、NHKのほかのプロデューサーはみなシロなのか? なんで民放各社は、そのことを鬼の首を取ったように伝えるのか? 民放のほかのプロデューサーはみなシロなのか?

 そうなの?

 警察機構の中での裏金の問題が事件化したことも、なぜ警察機構の中の一部(しかも田舎の)だけが取り上げられるのか?

 ある社会に必要なお金の使い方も、時には株式会社や役所のお金の使い方としてふさわしくないと考えられる場合はある。そうした場合に裏金が必要になる。従来、そういうお金の動かし方が多くの組織で行なわれていたけれども、これからはそういうことはやめましょうというのが、今の世の中の動きだ。

 世の中はよい方へ進んでいる。

 正直に言えばいいではないか。電気魔法瓶の宣伝で、「今までごめん」て、いいセリフがあったじゃないか。よくなることなら、過去の間違えは告白してしまえばいいのではないか。

「今までごめん。がんばった人をほめたり、みんなを元気づけるために、こういうお金が必要だと思って、みんなの工夫でためていました。お客さんのためにも、出資者(または納税者)のためにも悪いことじゃないと思っていたんです。でも、会社(または役所)が、出資者(または納税者)や税務署に見えないようなお金を持つことはいけないし、世界中で会計を公明正大にしましょうという流れがあることも尊重して、これからはそういうお金の流れ方がないようにします。もうしません」

 会社(または役所)が、そう言えばいいじゃないか。

 今のやり方でいくならば、これまで会社(または役所)に忠実に、善良に勤めていた人たちを幾人も罪人として差し出さないと、お金の流れを正常化していくことはできない。

 先輩や上司に従順な、和を大切にするタイプの善良な会社員、善良な公務員が、いちばん危うい。で、ずるいやつは逃げるんだ。

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