食べ物記者 齋藤訓之

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ニホンザリガニを獲り尽くしたこと

[caption id="attachment_1162" align="alignright" width="144"]アメリカザリガニ アメリカザリガニ[/caption]

 函館市には、見晴公園(みはらしこうえん)という公園がある。函館山方面から見ると右手の奥、湯の川温泉に続く河岸段丘を超えた内陸側の丘の上。市中心部からは離れているので、近隣の人以外にはあまり馴染みがないかも知れない。公園の中には、13haを超える広大な庭園がある。香雪園と言う。元は岩船さんという商業で成功した家の庭園だったものを、戦後公有化したものだ。

 この庭園の中に、渓谷がある。鯉が泳ぐ池から始まり、園外の水田まで続く。全長が今正確に分からないけれども、80~100m近くあるのではないか。池と渓谷の間には石橋があり、普通の人はこの石橋から渓谷を眺める。しかし、小学生は渓谷に降りて悪さをする。

 私が小学校低学年の頃、友人たちとこの渓谷でザリガニが獲れることを発見した。

 本州の人は聞いて笑うが、あの頃、函館のデパートや熱帯魚店ではアメリカザリガニが200円程度で売り出されていた。カブトムシが150円の時代だ。アメリカザリガニは、赤く、大きく、動きも派手。それに比べると、私たちが香雪園で獲って来るザリガニは、褐色で、大きくなっても5~6cmぐらい。地味なザリガニだった。

 それでも、自分たちで獲って来れるというのが面白い。大きな石をひっくり返すと、こそこそと逃げていく。それを見つけ、捕まえるのが楽しい。渓谷は薄暗く、そんな秘密めいた場所に、ありふれたバッタやチョウとは違う生き物が潜んでいるのが、子供にはこたえられない。

 よく獲れたのは3~4cmぐらいの小者。友人は、6cmぐらいのもの、しかも卵を抱いたものなどをよく仕留め、それがうらやましかった。

 この遊び、暫くは仲間うちの秘密だったが、徐々に他の子たちにも知れ渡り、通っていた小学校ではすっかり有名になってしまった。ある夏に行ったときには、渓谷中に小学生が充満していて、辟易として引き返して来た。

 中学生の頃、園内をそぞろ歩きしたついでに、戯れにザリガニを探してみたことがある。一匹も見つからなかった。「絶滅させてしまった」と理解した。

 その直後、NHKの夕方のテレビで、ザリガニの話をしていた。大学の先生が、アメリカザリガニの実物をつかみ上げながら、来歴と生態などを説明する。その横の水槽には小ぶりなザリガニが放してあった。アナウンサーがその一匹に手を伸ばそうとすると、先生が咄嗟にその手をはたいた。びっくりして手を引っ込めるアナウンサー。

 先生曰く、それはニホンザリガニというものである。現在は北海道ぐらいにしか生息していない貴重な生物である。触っちゃダメ!

 我々はとんでもないことをしちゃったらしいと、その時気付いて、人知れず非常に慌てた。

 この種の罪、謝る相手がいないのがタチの悪いところ。

 北海道の小学生諸君、もしニホンザリガニを見つけたら、そっとそこへ戻しておいてください。後で後悔するから。

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