食べ物記者 齋藤訓之

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堀江貴文氏が金の力を語る日を待つ

 バブル中のことだ。日本リテーリングセンターの渥美俊一氏に、外食企業はメセナやフィランソロピーにどう取り組むべきかと尋ねた。答えは、「外食企業はまだまだ人時生産性が低過ぎ、そのようなことができる段階に至っている会社は一つもない。まず、本業のイノベーションに邁進すべし」ということだった。

 その話の中で、国内大手GMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア。新聞などでは通常「大型スーパー」とか「大手流通チェーン」として扱われる)の創業者たちの話が出た。渥美氏はその創業者たち一人ひとりの名前を挙げ、氏が読売新聞記者をやめて日本リテーリングセンターを立ち上げた当初、集まった彼らは「全くの金の亡者だった」と振り返った。

「ところが、チェーンが大きくなるにつれて、事業が自分のためでなく、社会のためにあることを深く理解し、やがては名士(celebrity。つまり最近の言葉セレブの元)と呼ばれる人たちに変貌していった」。彼らに、あるべきチェーンの姿を助言しながら、彼らの変貌に立ち会えたことに、渥美氏は人生の大きな価値を感じているようだった。

 そして、その過程にこそ注目せよ、というのが、記者へのアドバイスだった。

 今日、堀江貴文氏に実刑判決が言い渡された。これから控訴し、またその結果によっては上告もしと、彼が仕事の現場に本格的に戻れるのはまだ先のことなのだろう。いずれにせよ、その日が早く来ることを祈りたい。

 かつて「お金で買えないものはない」と言ったという。この世の物理的側面は金で動かす仕組みをとっていて、物理的側面がそうではない面にも大きな影響を及ぼすから、この言葉に賛成はしないけれども、実はある核心を突いてはいる。

 彼は稼いだらよいのだ。金を集めることより、稼ぐことに頭を使って、今まで以上の富を手にしたらいい。そして、彼が信じる金というものの、その恐るべき力の有様をもっとよく観て知って欲しい。これは誰もができることではないので、その暁には、そうして見たものを、うまく、優しく、みんなに教えてくれればと思う。

 今までの彼について、最もよくなかったところは、金のイメージを傷つけたことだ。金の大切さ、ありがたみ、温もりや優しささえ伝え得る力、それを一生懸命集めることの美徳――金で自己実現を果たした人には、そういうものを語る責任がある。

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