食べ物記者 齋藤訓之

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日本人は、「みなさん、そうしていらっしゃいますよ」

[caption id="attachment_1166" align="alignright" width="192"]ですから避難してください ですから避難してください[/caption]

 数カ月前、空港の書店をぶらぶらしていたら、海外のジョークの中で日本人がどう扱われているかの本を見付けた。パラパラと立ち読みして書架に戻したのだが、以前友人から聞いた有名なジョークのバリエーションの一つが載っていた。友人から聞いたバージョンはこうだ。――タイタニック号がまさに沈むというとき、救命ボートが足りないことが判明した。船のボーイたちは女性と子供を優先し、男性客には救命ボートに乗ることをあきらめてくれるよう、説得に回ることになった……。

 英国人の乗船客に対して。「女王陛下のために、救命ボートは女性と子供に譲ってください」。

 米国人の乗船客に対して。「救命ボートは女性と子供に譲ってください。それが真の男というものです!」。

 ドイツ人の乗船客に対して。「救命ボートは女性と子供に譲ってください。それが本船の規則となっております」。

 その他、各国の乗船客に対する対応がいろいろに続いて、それぞれにクスリと笑わせる。

 最後。日本人の乗船客に対して。「救命ボートは女性と子供に譲ってください。みなさんそうしていらっしゃいますよ」。

 日本人て、そういう人たちだなあと爆笑。

 でも、これはただのジョークではなく、現実的に有効なことらしい。

 4月1日の日本経済新聞サイエンス欄に、「災害 人はなぜ逃げない?」という記事が載っていた。「人間は災害を過少評価しがち」なため、さまざまな災害・事故で多くの人が逃げ遅れる惨事が起きやすいといった内容だ。記事にコメントを寄せている東京女子大学の広瀬弘忠教授(災害心理学)には、「人はなぜ逃げおくれるのか」という著書がある。これによれば、その心理に加えて、パニックの発生を過剰に恐れる誤った常識が浸透しているという問題がある。そのため、避難指示が緊迫感を欠いたものになりがちで、「致命的な失態を招く」ことにもつながるという。

 この記事の後半では、人々を速やかに避難させる工夫について触れている。その中で、京都大学防災研究所の矢守克也准教授のコメントとして紹介されている一節を読んで、なるほどと唸った。「『避難しないと他人に迷惑をかける』という説得が有効」だというのだ。

「みなさん、そうしていらっしゃいますよ」――われわれ日本人の滑稽なところであり、美点でもある。

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