食べ物記者 齋藤訓之

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マクドナルド店長の残業問題。外食業界は近代化したのか

 日本マクドナルドの店長の残業代の問題。同社は「マクドナルド」の店長を管理職と考えており、残業代を払う考えはないのだという。1月には、東京地裁が店長1人への残業代支払いを命じており、近く同様の訴訟を準備している店長もいるとの報道あり。実はこの問題、古くからあり、大手チェーンで常識化している会社も少なくない。

 1月の判決の後、セブン-イレブンが3月から店長への残業代を支払うことにした。同様の動きはまだまだ他からも出てくるはずだ。

 もう15年ほども前の話。「月刊食堂」在職中、大手ファミリーレストラン・チェーンの店長たちを集めて覆面座談会を企画して、シリーズでやっていた。当時の彼らの、部下であるちょっと下の世代に対する不満の一つが、「あいつら、仕事できるくせに、店長にはなりたくないって言う」こと。なぜなりたがらないのかと尋ねると、「店長になると、残業代がなくなって、ガクッと年収が下がるから」とのこと。

 あのね。それじゃ、当たり前でしょ。残業代がなくなっても、年収がガクッと下がったら、誰だって嫌さ。

 今、彼らがいた会社が店長の残業代をどうしているのかは分からない。ただ、彼ら曰く、それは「チェーンレストランでは普通」のことだった。あれから相当時間が経っているので、外食業界は労働面でも近代化したものと思っていたものの、日本マクドナルドなり、セブン-イレブン・ジャパンにしてそうだったということは、まだまだ他にもありそうとも推測する。逆に、そうではないところは、この際、「うちはちゃんと払ってます」と表明することが、社会をよくするための助けとなるはずだ。

 そもそも、「管理職」の定義が日本の多くの企業であいまいなのが問題。管理職の線引きは、欧米企業では、「会社の意志決定にかかわる者が管理職」と、より明確だと聞く。グローバルダイニング(日本の会社ですが)のように、店長会議の決定事項には社長も逆らえないという店長ならば、堂々の管理職(もちろん、彼らは部下より手取りが低いなんてことはない)と言える。

 数千店の内の1店の責任者一人ひとりは、残念ながら日本マクドナルドの意思を左右する存在ではない。自分の給料を部下より高く保つ権限や実現可能性も持たされていないとすれば、なおのこと、彼らは会社の意志決定にかかわる者とは言えず、従って「店長」とはいっても「管理職」とみなすのには無理があるだろう。

 日本マクドナルド(現日本マクドナルドホールディングス)は、かつて米国マクドナルドも出資していたものの、藤田田が「日本人による経営」を貫いていた。当時は、「藤田さんに着いて行く」タイプの社員も多く、故人のカリスマで押さえが利いていたとも見える。同社OBからは、あの当時の社風と、今の社風とではだいぶ開きがあるように聞くが、店長の処遇の考え方はその頃から引きずっているものなのか。

 現在の日本マクドナルドという会社は、名実共に外資系となった日本マクドナルドホールディングスの子会社。そのトップも、日本人だが外資系出身者。とすると、「欧米企業では、会社の意志決定にかかわる者が管理職と明確」と、私が聞いた情報にちょっと誤りがあるのかもしれない。

 バブル後の不況の中、サテライト店舗も開発しての出店攻勢、「がちゃがちゃした奴らは蹴散らしていく」(藤田田)ための破格のディスカウントなどなど、いろいろな負担が想像されることをやってきた後だけに、数千店の店長たちの給料が一気に上がるのはたいへんな打撃でもあるだろう。しかし、旧弊は旧弊。うまくいっていた頃、諸事許されていた頃の思い出にうずくまっては駄目なのだ。

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