食べ物記者 齋藤訓之

農業、食品、外食に関するビジネスの記者・編集者、齋藤訓之(さいとう・さとし)のWebサイトです。

お金の心に応えているか

子供たちの気持ちに応えること。
子供たちの気持ちに応えること。

 お世話になっている、ある編集者が言っていたこと。この人は以前少年向けマンガ雑誌の編集部にいた。とても待遇のよい会社だったはずだけれど、そこを辞めて、今はビジネス系の書籍の編集をしている。頭脳明晰で仕事に熱心な人だ。

 なぜマンガ雑誌を辞めたのか?

 その雑誌のマンガ家の先生方を、ほかの編集者が接待する。キャバレー、キャバクラの類らしい。それに使う金額が尋常ではない。とても特殊な世界と感じて、付き合いきれないと感じたらしい。

 この人はこんなこと言わなかったけれど、これは面白い。子供向けのマンガを書いている先生たちが、風俗三昧。今は親からマンガ雑誌を買い与えられる子も多いのだろうけれど、大事にしている小遣いでマンガを買う子も依然多いに違いない。その金が集まって、先生方が女の子のいる店へ走るとすれば、これは人生もマンガだ。すごいな。

 子供の頃、こんなことがあった。特撮ヒーローものの主人公役の俳優が“事故”で死んでしまった。ニュースを聞いた子供同士で伝え合った事故とは、こんな風だった。銭湯の湯船の中にある穴(あるの?)から女湯に侵入しようとして、ケガをして溺れた……。子供が伝えていたことだから、本当かどうかわからない。でも、とにかくあのとき傷ついた。大人って、そんなものなのかと。

 長妻昭衆議院議員は、日経BP社の先輩。議員になった直後の頃、麹町でほかの先輩と一緒にカツ丼を食べたことがある。真面目で、偉そうなところのない人で、でも正義感の強そうな人。あのとき、「まだ何をしていいかわからなくてね」と言っていたけれど、昨今のご活躍、素晴らしいと思う。

 その長妻さんが“居酒屋タクシー”の問題を持ち出したとき、「私はしまった!」と思った。私も幾度か、“居酒屋タクシー”には乗っているからだ。

 ほかの先輩が「この人とね、この人がいいよ」と個人タクシーの名刺を見せてくれた。でんでん虫の人もいれば、ちょうちんの人もいる。携帯電話に電話すると、「うん。今、どこどこから戻るところですからね、20分ほど待ってもらえますか」と言って、来てくれた。

 乗ると、「お疲れ様でしたね。これ飲んでてください」と、缶ビールをくれた。缶から飲むこと、自動車の中で飲むこと、どっちもあまり好きではないのだけれど、好意がうれしくて、ありがたくいただいた。「飲まなかったら持って帰ってゆっくりやってください。まだありますからね」と、クーラーを見せる。「今日はこれも買ってありますから」と、コンビニ袋から乾き物も出そうとする。これは辞退。

 サラリーマン時代、深夜勤務でタクシーで帰るにせよ、その毎回を会社に請求するわけではない。状況を考えて、やむを得なく、業務にも役に立ったという自信があるときに会社の経費として精算する。それ以外は自腹。

 役所の人のように、その金の出所が税金であったらどうか。深夜帰宅も役所の事業のうちだ。その事業のために都度雇う業者から、缶ビールをもらうのは接待。そう言われればなるほどだ。

 民間ならどうか。その金の出所は読者の購読料と広告主からの広告料金など。彼らのために働く、働いて帰る、そのとき缶ビールの接待を受けることは……。うーん。たぶん多くの人が「いいんじゃない?」と言ってくれるんだろうけれど、衿は正さなければならない。経費として来るにせよ、給料として来るにせよ、自分たちにお金を出してくれた人が傷つくようなことはしてはいけない。それに、タクシーの中の缶ビールが含まれるかどうかを自問する。自営の今も同じこと。

 ワタミの渡邉美樹社長が言っていたことが面白い。示唆に富む。ワタミグループでは、外部から受けてよい接待は、かつては1回100円まで。これは缶コーヒー1本の金額として。なので今は120円ということになるか。

「缶コーヒーまで断ったら角が立つ。業務に支障が出る」

 というのが、その心。

 その渡邉社長、NPO法人スクール・エイド・ジャパンを立ち上げたきっかけが、また考えさせる。

 ワタミは以前、海外協力を行う別な団体に寄付を行っていた。ある日、その団体の代表と車で移動しているとき、渡邉社長は代表に尋ねた。「こう不況が続くと、寄付が集まらなくてたいへんでしょうね?」

 その代表、涼しい顔でこう返したと言う。「そうですね。私たちの報酬は変わりませんから、海外への支援の金額が減ります」。

 渡邉社長、恐らく表面では落ち着きを保ちながら、しかし心中怒髪天を突いた。「二度とお前んところには寄付しないからなと、心に決めました」。それで、自分たちでNPOを立ち上げたのだという。

 自分が何者なのか、誰に何を支持されて、どういう心を持ったお金が手もとにやってくるのか。それはいつも考えていなければならないのだと思う。安定的に成功を繰り返す人というのは、その辺の感覚がしっかりしている。

© Satoshi Saito, Kosetsusha, Inc. All Rights Reserved.
No reproduction or republication without written permission.