食べ物記者 齋藤訓之

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危機の予兆

[caption id="attachment_1189" align="alignright" width="144"]お見通しです(閻魔大王) お見通しです(閻魔大王)

 20代の頃、ばかに家賃の高いアパートに住んでいた。思い出すたび、いい気なものだったと思う。ある日帰宅すると、すべての部屋の床が水浸し。狐につままれたような気分だった。

 ほどなく不動産屋から電話が入る。その日ちょっとした地震があり、その拍子に上の階の部屋の全自動洗濯機のホースが外れた。その部屋の主は留守だったが、洗濯機につながる蛇口は開いていた。そのため、水が出っぱなしになり、遂にはあふれて私の部屋を水浸しにしたのだと言う。

 水浸しどころではない。不動産屋が異常の知らせに駆けつけたとき、私の部屋は全面水深50cmほどになっていて、ドアを開けると水がどうと流れ出したと言う。お陰様で、低い位置に並べていた子供の頃から大事にしていた百科事典はすべてお釈迦。それをはじめ、なにもかもぐじゃぐじゃになっていた。

 上の階の主が訪ねてきた。年は私と同じぐらいなんだけれども、その言いぐさがすごかった。「不動産屋から、謝りに行かないと出て行ってもらうと言われたので、来た」。わからないね、こういうことを言える人の心が。この人は日頃からやることがでたらめで、彼女を連れ込んでは真夜中にすさまじい物音を立てていた。ドカーンとか、どんなことをしているのか想像もつかない様子だった。そんな風だから、殊勝な言いぐさなど期待していなかったけれども、余計に腹が立ったのは言うまでもない。

 出した名刺が、さるデパートの横浜の店のもの。外商の部門だったから、仕事で出会う人はきちんとした人ばかりだったろうに、だから職場ではきちんとして過ごしていただろうに、人の裏というものはわからないものだと感心する。

 客商売でこんな人のいる会社は潰れるんじゃないかと思っていたら、なかなかどうしてそうはならず、でも約10年後にグループが一斉に民事再生法の適用を申請して倒産した。それまで、ほかの善人がカバーして食い止めていたのだろう。

 なるほどと思っていたら、私が以前勤めていた会社もそれから2年後に民事再生法適用を申請しているので、人の不幸を少しでも喜ぶものではないのだと思った。天網恢々疎にして漏らさず(ごめんね、残っていたみんな)。

 倒産させないためにいろいろなことを考えていた現役時代、同僚や先輩が、倒産が近い会社の特徴というのを、よそからいろいろ聞いてきて、その“予兆”を披露し合ってはぞっとしていた。

 思い出すところで2~3。いずれも私がいた会社ではなかったけれども、参考までに。

 まず社員の素行が悪くなる。顕著な例として、社のものと私物とを問わず、ものがなくなる。ものが壊れる。

 意外で驚いたのは、トイレの話。通常、男子トイレの“大”のほうは、いつもふさがっているものではない。それが、常に使用中になるものだという。

 くわばら、くわばら。

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