食べ物記者 齋藤訓之

農業、食品、外食に関するビジネスの記者・編集者、齋藤訓之(さいとう・さとし)のWebサイトです。

不思議な隣人体験

地図を見るたび、あの奇妙な“隣人”を思い出す
地図を見るたび、あの奇妙な“隣人”を思い出す

 何年か前のこと。職場に突然韓国から電話が来た。広告代理店の部長か何かの役職の人。あの国のある電機メーカーのハウスエージェンシーだという。会ったことはないし、名前も心当たりがない。私が不在だったので、折り返し電話せよというメモが残されていた。

 電話に出た人に、英語で話しかける。一般社員が英語を聞いて慌てる風は、日本と同じよう。何人かたらい回しされて、やっと英語で話せる人が出た。それで、お宅の部長から電話をもらって折り返せということなので電話しているのだけれど、と説明した。

 取り次がれて出た相手は、日本語を話す人だった。私たちが作っている非常に高価な報告書の、無料のサマリーをくれということだった。何でも、去年はもらったのに、今年まだ送ってよこさないのはけしからんとのこと。そういうことには心当たりがない。恐らく、私たちが作っている報告書をネタとしている広告代理店が、サービスに渡したもののことを言っていたらしい。

 無礼な感じがしたけれど、それは言葉が片言だからに違いないと考えることにした。それに、私たちのお客様になるかも知れない相手だ。私は、用意して郵送すると伝えて、電話を切った。

 そしてすぐ、ご所望のサマリーを用意した。だけでなく、その電機メーカーに関する話題のハイライトを特別に出力した(営業用に、そういうものを作るマクロを組んであった)。加えて、丁寧な手紙を書いて同封した。

 さて、2週間ほど経った後だろうか。また、その人から電話が来た。モノが来ないという苦情だった。ふむ。こちらには、郵便局で送ったときの控えがある。それを見て、いついつ送ったが、お宅の社内は探してみてくれたのかとやんわり尋ねたが、とにかくないの一点張り。

 やれやれ。

 郵便局に電話して調べてもらうと、少なくとも韓国へ向けて、日本からは発送されたとわかった。まあ、日本ほど優れた郵便システムを持たない国などいくらでもある。

 しかたなく、再度発送することにした。ただし、今度は要望されたサマリーと簡単な送り状だけ。親切心を起こすよりは、早く投函してあげたほうがよさそうだと考えたからだ。

 そして、それきりなしのつぶて。同じように梱包して、同じ宛名を書いて送ったから、韓国内で同じように消え失せてしまったのかもしれないし、届いたのかもしれない。

 それから何カ月か後のこと。私と上司とで打ち合わせと雑談をしているとき、変なことがわかった。ある日、上司に韓国人から電話が来た。お前に会いに行くからという話だったという。私たちが作っている報告書について、話を聞かせろということだった由。

 で、奇遇ですね。私も韓国の人から問い合わせを受けていたんですよと話したら、私が対応した相手と、この上司が急に会うはめになった相手とは、同じ人だとわかった。

 この私たちの上司は、私たちが作っている報告書の内容も意味も意義も、その報告が出来上がる機作も、ほとんど理解していない人だった。前の上司がいじめに会って退社して、その後釜に急に据えられた人なので、これは仕方がない。

 結局、その人は顧客とおぼしき何人かを連れて来て、私の上司に何か(もちろん、さほどの内容にはなりようがない)話させ、帰っていったという。報告書は買わずに。また、お前の部下に世話になった、あるいは、お前の部下は使えんやつだ、という話も、特に出なかった。

 恐らく、出張の口実とか、何かしているような雰囲気を作りたかったのだろう。その準備のために、報告書のサマリーを見ておく必要があったのだろう。私に電話してくれれば、あるいはそもそも、最初のリクエストのときに事情を話してくれれば、実のある話をしてあげられたものをと思った。けれど、実のところ、彼には実のある話は特に必要なかったのに違いない。

 しかし、用件によって相手の役職を変え、しかもいちいち新たにネゴシエーションをするというのは、ずいぶん手間だろうにと、不思議だった。

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