食べ物記者 齋藤訓之

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100万回生きてます

[caption id="attachment_1236" align="alignright" width="144"]猫 猫[/caption]

 「100万回生きたねこ」なんて、なんともつまらないタイトル。目立とうと思って、奇をてらおうと考えて、その悩んだ挙句に出たものが実はなんとも凡庸なもので……それがこの本の第一印象だった。勝手に想像して、勝手に嫌いになった。

 妻が買って来た、その理由も気に入らない。「有名なんだよ」って。

 不承不承、まだ善悪の見境もないような子供に読んで聞かせた。これがまた憂鬱な話だ。主人公の猫は、飼い主になつかないクールでドライな可愛げのないやつ。それが死ぬ。けっこう残酷な死に方で。やはり憂鬱だ。

 猫は、いろいろな時代、いろいろな飼い主のもとで、いろいろに不愉快な生き方をして、いろいろに悲惨な死に方をする。そしてそのたびに生きかえって次の飼い主のもとで生きる。その数100万回。

 以下は“ネタバレ”。これぐらい知っても、この本の価値は全く減じないと信じるけれどもご注意を。

 最後の生で、彼は愛を知る。妻を得る。子を成す。やがて妻を失い、泣き明かす。そして死ぬ。死んで二度と生きかえらない。

 初めて読んだときは、ただ憂鬱で、結末の意味もよくわからなくて、「嫌な本だ」という感想にしかならなかった。

 ところが変だ。

 二度目から、子供に読み聞かせていても、やつの最後の生で妻を得る辺りから、やだよねえ、涙があふれちゃって、字が見えなくなる。声が震えて読めなくなる。なんでかわからないけど、おいおい泣けてくる。しまいには、口から「きゅう……」としか声が出ない。

 子供はぽかんとしている。

 輪廻と解脱が書いてある――なーんて解釈しちゃうのもいいんだけれども、それはどうでもいいや。とにかく、僕ら生き物は、哀しいやね。そして可愛いやね。

 いとしいやね。

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