食べ物記者 齋藤訓之

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贈りものを“お裾分け”ではなく“山分け”

[caption id="attachment_1255" align="alignright" width="192"]友人がもらった絵入りのカステラ。みんなで食べたら、「おいしいね」が人数分。ごちそうさま 友人がもらった絵入りのカステラ。みんなで食べたら、「おいしいね」が人数分。ごちそうさま[/caption]

 お歳暮の季節になると思い出すこと。学生時代にアルバイトをしていた東京・西荻窪のイタリアン食堂「ポモドーロ」のマスター、夏目光顕さんのこと。

 この時期、仕入先の営業の方など取引のある人たちがお歳暮を持ってくる。夏目さん、こういうときは目を見開いて満面の笑顔で「ありがとうございます! うわー、うれしい!」と、端で見ていても気持ちいいぐらいにうれしそうにして、感謝の言葉を返す。

 で、その方が帰るやいなや、スタッフの目の前で包みを開けて「お! 石鹸だ! ほら、これお前の。お前もこれ……」と、シフトに入っている全員にその場で配ってしまう。タオルでもなんでも。分けられないものは切って。切れないものは、いちばんそれが必要そうな人にあげてしまう。たまに、お客さんが遠出したお土産にと、お菓子など持って来てくれたときも、すぐ、その場でみんなに分けてしまう。配りきれないと、非番のアルバイトに電話して「おいしーお菓子もらったから、おいで」と呼び出してくれたり。

「嫌なんだー、オレ。職場のボスが人から何かもらってこそこそ持って帰るようなの。それより、みんなで使ったほうがいいじゃん♪」そんな風に言って、とにかく何でも分けてしまう。自分を含めて全員均等に。つまり、“お裾分け”ではなくて、“山分け”。

「職場のボス」って言ったって、夏目さんはオーナーなのだ。自分のお金と責任で事業をやっていて、そこへ取引のある人が来て何かくれたって、何の後ろめたいこともない。でも、でも、ひとりだけトクをするようなことが、江戸っ子の夏目さんの美学に合わない。そんなことしたら、体がかゆくなりそう。そんな風。

 いつもその様子を見ていて、「かっこいい大人とはそういうものだ」「そういう大人にならなくっちゃ」と思った。これは、学生時代に教わったことの中でもかなり大切な、今も教わることができてうれしいと思えるものの、ベスト10、いやベスト3に入る。

 夏目さん、ありがとうございます。お店に遊びに行くのご無沙汰していてすみません。でも、照れくさいから、行ってもこんなこと直接言えないや。

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