食べ物記者 齋藤訓之

農業、食品、外食に関するビジネスの記者・編集者、齋藤訓之(さいとう・さとし)のWebサイトです。

最高に幸せな食べ物

[caption id="attachment_1304" align="alignright" width="192"]「LOG KIT」(佐世保)のスペシャルバーガー 「LOG KIT」(佐世保)のスペシャルバーガー[/caption]

 もう15年近く前、米国西海岸の新聞のコラムに、こんな話が載った。米国の理想の父親の三つの条件――
一、キャッチボールがうまいこと。
一、バーベキューを焼くのがうまいこと。
一、ハンバーガーをうまそうに食べられること。

 2/3は食べ物にかかわることかと、その時は流していた。

 その6~7年後、東京・五反田のハンバーガーショップ「7025フランクリンアベニュー」オーナー松本幸三氏(東京・広尾の「ホームワークス」のコンセプトメイクの功労者)から、米国人にとってのハンバーガーという食べ物の意味を教わった。氏がアメリカに住んでいた頃に見て、聞いて、食べて知ったハンバーガーの魅力。

 休日の朝、「今日はバーベキューをやろう」ということになる。子供は小躍りして、近所の友達に声をかけたり、電話で「バーベキューだよ」と呼んだりする。

 材料を買いに行く。自分がいちばん気に入っている店で、いちばんうまそうなパティを買ってくる。

 父ちゃんが火をおこす。銘々が、自分の好きな焼き加減にパティを焼く。

 自分の好きなパンに、自分の好きな野菜と、自分がベストと思う具合に焼けたパティを挟んで、好きなように塩やコショウやマスタードやケチャップをかける。

 出来上がったハンバーガーを自慢し合う。

 ほおばる。家族と、友達とおしゃべりしながら、うまい、うまいと食べる。

 太陽の下。外で。火があって。家族がいて。友達がいて。自分がいて。おいしいもの(肉だ!)があって。そして、自分のやり方がある。

 こんな幸せな風景はない。

 日本人が「ハンバーガー」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、黄色いMの看板と、「ごいっしょにポテトはいかがですか」という決まり文句だけれど、米国人は違う。

 英会話スクールに通っていたとき、その日の講師が米国人とわかると、決まってハンバーガーの話を振ってみた。これが面白い。「ハンバーガー」と言った途端、皆、思わず顔をほころばせる。あるいは目を見開いて、口角を上げる――「ハンバーガーの話? しよう、しよう!」と。

 大好きなんだね。

 僕らはそういう食べ物を持っているだろうか。

 鍋もの? 太陽がない。その代わり、“自分のやり方”を抑制する“鍋奉行”がいる。

 餅つき大会。芋煮会。北海道なら、休日に屋外で食べるジンギスカン。そういうものが近いか。これに“自分のやり方”がうまく入り込めれば、ぐっと楽しさも増しそうだ。

 キャンプで。小学生の子供たちが、先端にマシュマロを刺した棒をそれぞれに握り締めて火にかざしているときの目――自分の子も、よその子も、とても愛しく思えるもの。

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