食べ物記者 齋藤訓之

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あげられる? 無条件の陽性のストローク

[caption id="attachment_1493" align="alignright" width="192"]「私の気持ちわかってよ、ワン!」 「私の気持ちわかってよ、ワン!」[/caption]

 犬が何度か粗相をする。トイレではないところで用を足してしまう。現場を見つけて叱る。やれやれと言っていたら、飼いなれている人からいいことを教えてもらった。「犬は、あまりかまってやらないと、わざと間違った場所で用を足すものだ」と。

 またまた、「万能感とは何か」の中に、この説を連想させる話があった。

 この本が扱う交流分析(TA=Transactional Analysis)によれば、人生の目的はストローク(Stroke)を得ることだそうだ。ストロークとは、心と心の触れ合いのこと。

 ストロークには、陽性のストロークと陰性のストロークとがある。人を喜ばせ、心地よい気分にさせるのが、陽性のストローク。叱られたり、攻撃されたり、非難されて傷つき、不愉快にさせるのが、陰性のストローク。

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 さらに、条件付きのストロークと、無条件のストロークがある。条件付きのストロークとは、「いいことをしたからほめる」「悪いことをしたから叱る」といった、行動に対するストロークのこと。一方、無条件のストロークとは、存在に対する絶対的なストローク。無条件の陽性のストロークなら、我が子が何だろうと何をしようと「かわいい子だ。大事だ」と愛情を注ぐことが該当するし、無条件の陰性のストロークなら、「お前なんか生まれて来なければよかった」(ひどいセリフだ)などと言い放つようなことが該当する。

 誰しも、陽性のストロークを得たいと思う。それで、頑張って勉強してテストでいい点を取ったり、親の目の前でお年寄りに席を譲るなどしてほめられようとしたり、そんな子も多い。ところが、こうした条件付きの陽性のストロークだけでは、愛情不足を感じるのだそうだ。無条件の陽性のストローク、「とにかく、なにがなんでも、お前はかわいい、いい子だ!」というのが必要らしい。

 最悪なのは、陰も陽もなく、条件のあるなしもなく、とにかくストロークがない状態。無視、無関心、ムラハチブ。こうなると、人間はストローク不足をなんとかしようと必死になる。

 で、とんでもない法則がある。「人は陽性のストロークが得られなくなると、陰性のストロークを自ら集め始める」のだそうだ。つまり、自分でトラブルを起こし始める。無視されてさびしい思いをしているよりも、トラブルを起こして叱られたり非難されたりした方がまし、と思うわけだ。このいかれた行動を、TAではゲーム(Game)と呼ぶ。

 TAが犬にも適用できる話なのかどうかはわからないが、うちの犬の場合、私があまりかまわなかったものだから(陽性のストロークが不足したものだから)、間違った場所に小便を漏らしたり、糞を落としたりというトラブルを起こした。このゲームの結果、彼女(うちの犬は雌です)は望み通り叱られた。つまり、陰性のストロークをGetというわけ。

 思い返せば、学校のクラスに必ず一人や二人そんな人はいた。ちょっとしたことですぐにケンカをしたがる者、犯人がバレバレのくだらないいたずら、後でクラス中の友人たちから「嫌なやつ」と言われることが火を見るより明らかなのにしてしまうチクリ。

 大人になっても変わらないようだ。どの職場にも、やはりそんな人はいるもの。繰り返し、いつも同じ失敗をする人。チームの仕事にトラブルがあったとき、粛々と立て直しを図ろうとするメンバーたちをそっちのけに、ひたすら「とんでもないことになった!」などと大騒ぎをして人目を引く者。事故やケガが多い人というのも、ストローク不足が原因となっているのではと思われる場合がある。

 また、通勤電車で隣の人に悪態をついて「お客様同士のトラブル」を起こしているおじさんやOLたちも、日頃のストローク不足からゲームに打って出ているように見えることが多い。

 こういう人たちに「だめ」と言っても、「やめなさい」と言っても、じゅんじゅんと諭しても、全く解決にはならない。彼らのゲームに参加することにしかならないのだから。

 放っておけばいいか? それもよい解決とは言えない。周囲から避けられる→ストローク不足→ゲームに打って出る→周囲から避けられる→……と、ストローク不足スパイラルに陥ってしまうからだ。

 彼らいい大人たちが、通勤電車や職場で大小便を撒き散らすことを防止するには、身近な人間が無条件の陽性のストロークを与える必要がある。

 愛情が大事なんでありますな。

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