食べ物記者 齋藤訓之

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遅れてはいけない役割

 以前、同僚が笑い話として話してくれた、ある広告代理店社員の言動の例。

 CM撮影のロケ現場。カメラ、タレント、スタイリスト、ヘアメイク、大勢のメンバーが集まっている。ところが、何をどうするかでもめている。烏合の衆。

 そこへ広告代理店社員が遅れて車で到着。一同が「ああでもない、こうでもない」と騒いでいるのを呆れた顔で眺めて吐き捨てる――「しょうがねぇやつらだな。オレがいねぇと何もできねぇんだ」。で、お前はあれをこうしろ、あんたはこっちに来てこれをやれと一人ひとり指示。以後、整然と撮影が始まる。……架空の場面だけれども、こういう人の特徴をよくとらえている。

 同僚は、この広告代理店の社員が自信家で偉そうという評判を表そうとしたのだけれども、私ならこの話から、この人の別な面を読み取る。これ、つまり、この人は人を集めただけで、何のために何をするのかをちゃんと説明していなかったということ。現場でテキパキと指図する姿はかっこいいかもしれないけれど、要はプロにプロの仕事をしてもらうリーダーシップがないのだ。

 現実の話としてこんなのもある。あるカメラマンが体験した話。

 撮影の現場に行ったら、取材の相手と、文章を書くライターは来ていた。ところが、編集者が来ない。そこへその編集者から電話がかかってきた。「風邪をひいたので、現場に行けない。よしなに進めるように」と。

 事前に打ち合わせがなかったため、カメラマンとライターでパニクりながら、せいいっぱい頭を働かせて、いろいろなカットを撮影したという。

 ところが、後日仕上がりを持って件の編集者を訪ねると、軽蔑するような目。「必要なカットが全然撮れていない!」と罵倒された。

 しかたがないよ、そりゃ。編集者が何も指示しなかったんだから。

 私の場合、編集者になりたての頃、先輩からきつく叱られた経験がある。「取材の相手は遅刻していい。カメラも遅刻していい。ライターも遅刻していい。ただし、編集者だけは、どんなことがあっても遅刻してはいけない」。なぜなら、何をどうするかは、編集者が考えることだから。

 いや、それでも遅れたことは何度かあります、私。いやいや、それ以上に役割が果たせていないと自己嫌悪に陥るのは、何をどうしたいか、十分に頭を働かせられなかったとき。困らせてしまったみなさん、申し訳ない。

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