食べ物記者 齋藤訓之

農業、食品、外食に関するビジネスの記者・編集者、齋藤訓之(さいとう・さとし)のWebサイトです。

沖田方程式

[caption id="attachment_1522" align="alignright" width="192"]見聞中の私(photo: Eduardo Moraga) 見聞中の私(photo: Eduardo Moraga)[/caption]

 通っていた高校に「沖田方程式」なる、へんてこなジョークが伝わっていた。化学の沖田先生が授業中に言ったらしい。

一を聞いて十を知る
百聞は一見にしかず
∴一見して千を知る

 ……方程式じゃないじゃん。

 恐らく、先生が言いたかったことは、“聡くあれ”ということだったのだろうと想像する。

 先生たちのこう言うジョークを聞くや、「シピー」なる異音を口々に発してシラケを伝え、大人数で重層的に「シピ」攻撃を浴びせて話者の戦意を喪失させるというのが、我が校の悪しき伝統(6歳上の兄の世代に既に始まっていて、私の世代では「シピ」は函館市内全校に普及していた)。その光景が目に浮かんで、「沖田方程式」を思い出すたび力が抜ける。

 さて、実際の仕事の中で「一見して千を知る」発想力は、あったらいいなとは思う。創造開発研究所の高橋誠さんによれば、有益なアイデアは“千三つ”とのこと。別に“ほら吹き”の意味ではない。善し悪しの評価を考えずに最低1000個のさまざまなアイデアを実際に出したとき、初めて有益なアイデアが3つほど得られるという経験則のこと。“千を知る”ことは大事なようだ。

 ただし、それだけのアイデアを出し切るには、アイデアを出すトレーニングを積んだ人で、しかも呼吸の合う同士ができれば6人集まることが必要。その上で、しかるべき方法(「図解!解決力」に、さまざまな方法が、惜しみなく、詳しく書かれている。上司や同僚が本当のブレーンストーミングの意味を知らないために、いつも職場で苦労させられているという人には特にお薦め)によって、相互に影響を与えながら発想してやっと出るものだと言う。一人で「一見して千を知る」のは、ちょっと無理。

 私などの普段の私の仕事でむしろ多いのは、これの逆。「千を知って一を見る」とでも言おうか、1000の見聞があって、やっとこ1本の記事が出来るというか。雑誌では1000人も取材していられないけれど。これはやっていて楽しい。

 少なくとも、「一見して千を知」っちゃった記事をそのまんま書いたら、その人はクビ。ときどきこういう人は現れるものなので、雑誌編集の仕事というのもなかなかたいへん。

© Satoshi Saito, Kosetsusha, Inc. All Rights Reserved.
No reproduction or republication without written permission.