食べ物記者 齋藤訓之

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オバマの演説で再確認。スピーチのスキルこそリーダーシップ

[caption id="attachment_1527" align="alignright" width="192"]コンテストに集まった全国のトーストマスターズ コンテストに集まった全国のトーストマスターズ

 オバマ大統領の演説に注目が集まっていると、テレビのニュース番組などが報じている。そう。日本の首相以下すべての政治家が持ち合わせていない、伝えたい内容と、情熱と、スピーチのスキルを、彼は持っている。

 オバマはとりわけ優れた人の一人だけれども、米国には彼と同じように、伝えたい内容と、情熱と、スピーチのスキルを持っている人がたくさんいる。政治家はもちろん。企業の経営者、ボランティア団体のメンバー、さまざまな分野の研究者、そして普通の大学生や高校生まで。

 彼らは、スピーチを重要なことと考えている。それは、思いと考えを伝え、ひとの心を揺さぶり、行動を起こさせる、リーダーシップの真髄だから。人間だけにできる、最も人間らしい行いの一つでもある。

 だから、学校の授業でもスピーチの技術や会議運営のルールと技術を教える。一人ひとり練習もする。そのためのクラブもある。

 スピーチのスキルとリーダーシップを身に付け、鍛えるクラブのことは、「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」やトム・ピーターズの「ブランド人になれ!」にも書いてある。「トーストマスターズ」(Toastmasters)というクラブだ。

 85年前にカリフォルニアのあるYMCAの中で始まった。以来、全米各地、世界各国にクラブを増やし、多くの企業経営者や政治家を輩出してきた。

 日本では戦後、進駐軍の兵士やビジネスパーソンたちがリードしていくつかのクラブを立ち上げ、現在は全国各地にたくさんのクラブが出来ている。基本は英語を使うクラブだけれども、近年日本語トーストマスターズが、英語トーストマスターズからも注目されている。現地語のトーストマスターズの活動は、他の諸国でも活発になっている。

 私は、2001年に日本語の江戸トーストマスターズに入会した。つい例会を休みがちながら、現在もメンバーだ。

 入会した当初、私は人前で話すのなど、大の苦手。昔からそうだから、絵を描いたり文章を書いたり、そういうことにばかり熱心になっていた。でも、やっぱり口頭で思いを伝えられないと、好きなことを書く機会も得られない。会社の中で部下のいる立場になったこともあって、門をたたいてみた。

 クラブにはマニュアルがあって、そのカリキュラムをこなしていく。それを他のメンバーがサポートしてくれたり、論評してくれたりする。先生はいない。お互いに影響し合うことで、伸ばし合う、伸び合うしくみだ。

 準備して行うスピーチのほかに、突然質問されて短いスピーチを行うという、ゲームのようなプログラムもあって、例会では毎回それをする。

 最初はあがってガチガチ、しどろもどろだった私も、メンバーのおかげでずいぶんうまく話せるようになった。講演に呼んでいただいて、「トーストマスターズでよかった」と思ったことが何度もある。毎回、話す前と、話した後、それをしみじみ思う。

 そして、ほとんどの政治家がスピーチについて何の勉強も準備もしていないことがわかり、プロの司会者やアナウンサーにも、仕事熱心な人と不勉強な人とがいることがわかってきた。こうなると、ますます面白くなる。

 そう思い始めたあるとき、上級スピーカーから教わった。「今日のあなたのスピーチ。話は面白かったけれども、聞いた人にどんな行動を求めるかという要素がなかった。これはだめ」。スピーチは、落語や漫談とは違う。人の前で、ひとに話すということは、目的があるのだ。「こうだから、こうしようよ」と働きかけること。

「上手に話せるようになれたら」と思って始めたトーストマスターズだけれども、この指摘を受けたのは、大きな転機だった。つまり、人前で、ひとに話すということは、リーダーシップそのものだったのだ。そう気付くと、生活や仕事のしかたまで変わってきた。

 誰でも、よいコーチを受けながら練習すれば、人前で話すことはできるようになる。そしてそれが上手になる。そして、リーダーシップを身に付ける。いいことを思い付いて、みんなでそれを実現するように、ひとを誘うことができるようになる。これは、背中に羽根を生やすこと。お薦めの体験です。

 来たれ、トーストマスターズへ。Yes, you can.

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