嘘と統合しない。現実を積み重ねて統合する

お地蔵さん、一人、二人、三人……。見えるものと、人の頭の中の数は統合されている。 エデンの東
お地蔵さん、一人、二人、三人……。見えるものと、人の頭の中の数は統合されている。

人はある時、嘘を持つ。すると、その瞬間から嘘は刻々と大きくなり、姿も変える。その嘘を、生きている間中管理することができると踏めば、嘘を秘密として持ち続けるのも手だろう。けれど、その巨大化した嘘の固まりに、ある日人は押しつぶされることがある。

お地蔵さん、一人、二人、三人……。見えるものと、人の頭の中の数は統合されている。

お地蔵さん、一人、二人、三人……。見えるものと、人の頭の中の数は統合されている。

 嘘は、他の様々な事柄と同じく、それが存在する世界としての統合を求め、世界に浸み込んで行こうとする。完成したペントミノのピース一つの置き方を変えると、パズル全体を組み直す必要が生じる。そのように、一つの不実は、人に世界を変えるように強いてくる。

 諺語「嘘は泥棒の始まり」はそのことを言っている。嘘を持ち、その嘘と現実の世界を統合するために、人はついに、泥棒にも詐欺師にもならなければならない。そんなはなれわざを自然にこつこつとやってのけていく人もいる。取材でいろいろな人に会う中で、ときどき、幽霊のような人と出くわすことがある。幽霊を見たことがあるわけではないけれど、その人の不思議なリアリティのなさ、この世にしっかりとつながっていることを感じ取れない様、それが幽霊というものを連想させる。恐らくそういう人は、小さな嘘から始まって、その嘘に合わせて別な嘘を作り、ついにはほぼ全身をいくつもの嘘に入れ替えてしまっているのだ。

 しかし、多くの人にとって、秘密のある生活はなかなかに苦しい。一度持った秘密をコントロールできなくなれば、古来自ら死を選ぶ人さえ珍しくない。あるいは嘘のもとに統合されていく新しい世界の完成のために、その人自身が抹殺されることもある。我々は嘘を抱くその重大さに戦かなければならない。

 統合した世界を目指すには、現実を積み重ねて統合する方が楽だ。数学では、人間の頭の中で全く架空の世界を作って統合された論理体系を作ることも、ある程度は可能だろう。けれども、今行われている数学は、人間が把握できる自然の現象にならって約束事を積み重ねてきた。自然界に数はない。けれど、石ころ1個と1個を合わせて2個と呼ぶなど、頭の中とてのひらの上の石ころの様子とを統合し得る約束事で人は思惟と自然界とを統合することができる。このやり方が無理がなく、楽なのだ。

 以前アレフの庄司昭夫社長にうかがった、商業界初代主幹、故倉本長治氏の言葉――「店の中には嘘がある。その嘘を毎日一つひとつなくして行こうよ」。嘘がない店は、無理がない。自然に回る。そして永く続く。そのことをおっしゃったのだと思う。

 誠と嘘の問題は、もちろん善と悪の問題として考えることもできるだろう。だが、楽で、安全で、自分にも他人にも無理を強いることなく、誰ともうまくやっていける生き方として、嘘と距離を置いていたい。

 松岡利勝氏のこと、善悪で考えるとすれば悪と断じてしまいとなるだろう。しかし、そのこととは別のことを思わずにはいられない。彼の死はまことにいたましい。ご冥福を祈ります。そして、親御さんのことを考えればなんともいたわしい。

 誰も、こんな目に遭うな。

※ペントミノ:敷き詰めパズルの一種。2つの正方形の辺同士を共有させて5個並べるには、12通りの異なる組み合わせがある。その12種類の図形をピースとする。

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