以前、友人がハワイに行ったときのこと。レンタカーを借りてドライブして、ショッピングセンターのパーキングに入れて、戻って来たところを警察にキップを切られた。
この人、いたってまじめ、本来は品行方正な正義漢なのだが、このとき平均的な日本人の一人として、彼の遵法感覚に未熟なところがあった。車椅子マークが大きくペイントされた身体障害者用駐車スペースに車を停めたのだ。彼にはハンディキャップはなかった。
おまわりさんにキップを切られていると、通りがかりの人がのぞきこんで声をかける。
「あら、どうしたの?」
――身体障害者用のスペースに車を停めたんです。
「ああ。それはいけないわね」
皆、眉をしかめて首を横に動かしながら、そう言って通り過ぎたと言う。
帰国後、反省しきりの様子でその顛末を話してくれた。
こういうところ、米国はいい国だなと思う。
日本はどうなのか。少なくとも、私が立ち寄るスーパー、レストラン、専門店、オフィス、郵便局、どこもかしこも、建物にいちばん出入りしやすい位置にある車椅子マークの駐車スペースには真っ先に車が入って行く。車椅子マークのステッカーのない車がだ。
何と言ったらいいのかな。こういうのは法律以前の問題なんだけれど。「エチケット」とか「思いやり」とかとも言うかも知れないが、何より想像力の問題だ。
で、そうやって誰かに迷惑をかけている人たちが、「東横イン」の新聞記事を書いたり、テレビニュースのビデオを作ったり、ビール飲みながら新聞読んだり、テレビ観たり、「あの社長はさ……」とくさしたり、という諸々の活動を繰り広げる社会の一部を構成しているんだと思うと、クラクラする。
「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」(ヨハネによる福音書、第8章7節)。