「BRUTUS」2/15の特集「みんなで農業」に農水省の予算が付いていることについて

想う伝える

 農業の取材をする仲間から「農水省の官僚から聞いて来た」と、それをさっき聞いた。情報遅いですね、私は。「BRUTUS」(ブルータス)2/15の特集「みんなで農業」。農水省の予算が付いていたという。なるほど。さもありなん。調べてみたら、その彼が言っていた金額よりも、ちょっと安かった

「BRUTUS」の特集「みんなで農業」。

「BRUTUS」の特集「みんなで農業」。

 タイアップ、ペイドパブなど、雑誌が読者と純広(すみひろじゃなくて、じゅんこう)の広告主以外からお金を払ってもらうことは、珍しいことではない。出所が企業ではなく、団体や行政であることもある。入札ではなく、随意契約であることも少なくない。相手が行政であれば、そのことは積極的な方法ではないにせよ、発表される。

 だから、何かやましいことがあったかのように言うのは、当たらない。でもね、それを知ってがっかりした人がいるのであれば、その人たちの話はよく聞いて、反省点はまとめておけばいい。そうすれば、次はもっと素敵な特集ができるはず。

 私自身は、あの特集に好感を持った。

 なにしろ、どのページも楽しいのがいい。農業に関するメディアに、被害妄想の助長、農業の敵を作っての攻撃といったコンテンツは、ほとんど不可欠と思われているけれど、この特集にはそんなものが全くない。

 それだけに、ところどころ違和感も感じはした。でも、それでいいはず。「BRUTUS」は新しいことをやってみたのだから。

 街に、いままでにない新しいレストランが出来れば、まずよその店の店主がその店をくさす、こけおろす。また、よその店のなじみ客や、取引のある業者も、「あの店はわかっちゃいない」なんてことを言い出す。そういうもの。

 だから、かっこよすぎたり、おしゃれすぎたり、切り口が違うよと感じたり、「これって農『業』なの?」と感じたりと、私が感じたたくさんの違和感は、「BRUTUS」の問題じゃない。私の問題だ。私がその違和感を、これからどう持っていくか、私がよく考えなければいけない(どちらかが正しく、どちらかが誤っているという類の問題ではない)。

 というわけで、「BRUTUS」に伝えたい苦情は、何も持ち合わせていない。何か伝えるとしたら、「ブラボー!」だ。楽しかったでしょ? うらやましいなあ(強い本音)。

 一方でね、やりたかったことのいくつかがやられてしまったので(しかも、恐らく私がやるよりずっとかっこよく)、ちょっと悔しい気持ちがあるけれど、そういうものをリスペクトに変えて呑み込むのは、私の仕事の一つだ。だから、もう一つは「サンキュー!」。

 感心したのは、取材先の選び方。かなわないと思った。変な言い方だけれど、玄人好みの粒よりの農家・現場・モノをよく見つけている。正直に言って、この号を書店でパラパラとめくって、いちばんびびったのはこの点。マガジンハウスのすごみみたいなものの健在ぶりを感じて、畏怖さえ憶えた。

 誰かに聞いたんだろうって? その聞けたことが、すごいのさ。

 佐藤可士和さんが通っている「カズサの愛彩グループ」の須藤久雄さんは、「農業成功マニュアル」の〈はじめに〉にも書いた通り、私の恩人の一人。須藤さんたちのセンスを生かして整備したガーデンファーム、須藤さんが夢見た通りに素敵な農場になって、それがその通りに描かれている。

 マスコミはパスという須藤さんが載らず、佐藤可士和さんとお仲間たちが出ているところも、須藤さんの気持ちに合っていたはず。

 高松求さんまで載っていたのには、ほんとうに驚いた。2週間ほど前に高松さんに会ったとき、もちろんこの記事の話になった。

 最初、アポ取りの段階でどんな雑誌にどう載るのか説明がなくて、「ああいう人たちはわかりませんね」と言うので、さてはご立腹かと思ったら、違った。「あんな風に表現してくれた人は、今までいなかった。ありがたいですね」とのこと。

 高松さんは表現が新しいと言うけれど、私は違う点ですごいと思った。恐らく、高松さんが初対面の人に話す3時間コースのお話&納屋・圃場ツアーを、原稿用紙3枚程度の短い文章に見事にまとめている。上手です。素晴らしい。

 一方で、農水省の官僚好みのいくつかの農家が、きれいにはずされているところも面白い。誰のどんな意図が働いたのか、全く働かなかったのか、それはわからないけれど、とにかくその点がとても興味深い。違いはここなのだよ、明智君。

 そして、小物たち。かわいい地下足袋がいい。グローブもおしゃれ。それに混じっての麻ヒモでしょ。さらに、pHメーターなんて、さりげにすごいカテゴリーを持ってくるじゃない。このタイプのものじゃないほうがいいと思うけれど、東急ハンズで買えるものを選んだところがいい(他の小物もかな)。

 というわけで、いいじゃない、「BRUTUS」。こんな楽しい特集ができて、制作費を上回る収入があったんだから、これは拍手。だから、もう一つ伝えたいのは「おめでとう!」ということ。

 え? 政府の金で雑誌ができたことに、まだ納得が行かない? それはそうかも知れない。でも、問題はマガジンハウスが収入を得たことではない。彼らは、幸せなビジネスをしただけだ。

 いちばんの問題、その問題の本質は、農水省がそういう予算を持っていたという部分のはず。この予算、近ごろみんなが大好きな話題にまつわるもの。「食料自給率戦略広報推進事業委託事業」というやつだ。

 農水省のばかばかしい予算、有害な予算は、もちろんこれだけではないし、今に始まったことではない。年度末にとってつけたような事業が慌ただしく実施されるのも、昔からあること。そして問われているのは、そんな予算を通したのは、誰(を選んだ誰)なのかということ。

 納得行かない気持ちの持って行き場は、正しく見極めなくちゃ。いつも。

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